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[即興小説]疲弊の略奪者 →"いつも"の街角 続編

お題:疲れた略奪 制限時間:15分

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 この場所に居座って、いかほどの時間が経過しただろうか。
 俺は、無精ひげを撫でながら、木の上からその道を見晴らした。ここいらは冒険者がよく通る。いいカモがいれば、そいつから窃盗をすればいい、そうすればすぐに帰れるんだ、と焦燥感を抱きながら、また構えなおした。
 
 大金じゃなくていい、これに成功すればきっと、病気の娘の薬を手に入れるための金なんて、すぐに準備できる。冒険者とてそんなに身入りのいい商売ではないが、飢えて死ぬことが当たり前となったこの街の民よりは、ずっと金をもっていることだろう。少なくとも、暖かいスープを用意することくらいはできるはずだ。寒空の下にバタバタと死んでいく領民を放置する領主に期待を抱くより、随分と現実的に思えた。
 病気になっていてもいなくても、胃に何もなければ、体調というものは当然悪化する一方だ。せめて、暖かい食事だけでも用意してやりたい。
 そんな親心から、俺は、今か、今かと、略奪の機会を伺っていた。

 そうして思索にくれていると。
 一人、鎧を着込んだ、見てすぐ女と分かる冒険者らしき人物が、町へと向かう。無用心なことだ、とそれだけ心のうちで呟いて、彼女を敵と見立て、準備を始めた。
 重鎧が相手なら、関節部にあるであろうスキマを狙うしかない。接近すれば薄い装甲箇所であれば貫通することもあるかもしれないがおそらく接近戦が得手であろう冒険者にそれはこちらが不利すぎる。それか、兜をかぶっていないのだから、頭を狙うか、だ。
 まずは弓で狙って、それがダメなら破れかぶれに、棍棒で接近戦に挑むしかない。ただ、後者は自殺をしにいくようなものだ。弓で仕留めれればいいが、長く旅をしてきた熟練者なら、気配を察せられる可能性も高い。ある程度の覚悟が必要だろう。
 俺は、そうして弓を取った。

 * * *
 
「どうしてこんなことを?」
 俺は今、その冒険者からしりもちをつかされ、剣を喉元に突きつけられている。
 つう、っと剣先が喉元をなぞった。背中に冷や汗が伝う。
「金が欲しかったからさ」
「そう。家族はいる?」
 ああ、多分、殺すつもりなんだろう。その質問の意図を理解する。
「いる。病気の娘が一人。そいつの薬を用意するのに、金が必要だった」
「そう。じゃあ、見逃してあげる」
 彼女は、剣を仕舞った。
「今からでも襲ってくるかもしれないのに、無用心だぜ、お嬢さん」
 こんなことを言って、助かった命なのに、と、自分自身でも皮肉屋すぎる、と思うが、こればかりは性分だ。
「そのつもりなら、そう言ったりしないでしょ」
「はっ、そのとおりだ。でも本当に気をつけるんだな。ここからは、俺どころじゃない、本当に生死をかけて人々は強盗なんかを繰り返し、街中なのに胃がカラッポの死体がゴロゴロしている、地獄だ」
「そう。ご忠告、どうも。本当は、薬代を出してあげたいところだけど……」
 キリがないから。
 声は出ず、唇だけがそう動く。
 そのくらい、分かっている。安い善意だけ、ほんの少しの良心で解決する問題じゃない。俺が助かったとしても、ほかのやつもまた、そういったのがゴロゴロいるんだ。彼女がもたない。そう、無理やり搾取されたりしなければ。
「いいさ、次にかける。じゃあな」
 その時はまだ、心に余裕があったんだ。
 
 * * *
 
 数日後。俺は空腹を通り越して、水っぱらでなんとか日々をやり過ごしていた。自分の食事する金なら、パンひとつくらいならなんとかあるが、性格上、金は少しだけ渡しているものの恐らく自分の薬のために同じく飲まず食わずでいるであろう娘のことを考えると、食べる気になんてなれなかった。
 
 そして、少年が通りがかった。彼もまた、冒険者のようだった。ここ数日で、何人も、冒険者は通りがかった。そして、挑むたびに、哀れみの目で、それを許されていたのだ。おそらく、ここいらの惨状のことを知っていたのだろう。それを知っていてなお、何もできず、何もする気も起こさず、ただ、流れゆくだけ。彼らと自分たちでは、何が違ったのか。考えてみても答えは出ず、そして今すべきはそれを考えることではない。自分の娘の命を救うための金、それだけだ。
 もう、冒険者たちの哀れみに甘んじていられない。そろそろ娘も限界のはず。ここいらで、勝負を決めなくてはいけない。せめて、食事をできるくらいには。冒険者の彼らにだって生活があり家族がある。分かっている。でも、俺は俺の大事なものを守るために、この弓を、ひかなくてはならないのだ。
 そして、俺は矢をつがえた。次の標的に、狙いを定めて。

 * * *
 
 ナイフを地面に突き刺し、地に寝転がった俺に、少年はこういった。
「さようなら」
 その微笑みは、冷たく、まるで死神のようだった。
 だが、慈悲深い天使のようでもあった。この哀れな生をようやく終えられる。心残りは、娘のこと。誰かが助けてくれればいい、と、今まで散々自分を嬲ってきた神様に、心からの願いをかける。
「あばよ」
 この少年と、二度と会うことはないだろう。
 俺は同じく、二度と会えないであろう娘を想い、同じ言葉を返した。
 
 おそらくは、あの世ですぐに再開できるであろうことと、その時の謝罪の言葉を考えながら。

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