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私たちは、当時、とても若かった。
今思い返せば、青臭い、とお互い笑ってしまうのだけれども、それでも必死に、お互いをわかり合おうとしていたのだ。
付き合いだしたのは大学に入ってからのことだった。
幼馴染同士。おうちが近所。両親はよくお互いのことを知っているし、両親同士の親交も厚い。
そんな二人がお互いを異性だとして意識しだしたのは、いつからだったのか。
高校まで同じ学校で、そんなこと考えてみたこともなくて。
大学を、進路を考えているときに、ああ、離れ離れになるんだな、そう思い至った時、はじめて気づいたのかもしれない。
ずっとこの胸のうちで育ってきた、恋の芽に。
「ねぇ、なんでいつになっても手を出してくれないの?」
からかうように、彼のベッドの上で腰掛けて、私が言うと、赤面して、武は目をそらした。
「アホ。もっと色気が出てきてから言え」
「結構、これでも人気あるんだけど」
「男女関係なく、友達として、だろ」
「悪かったわねー」
ぶー、と口を尖らせて、近くのぬいぐるみを抱きしめる。
「ねーキョーちゃん、タケシ酷いよねー」
「ぬいぐるみに話しかけるな、気色悪い」
武は、私の相手はほどほどにして、机に向かって勉強を続けることにしたようで、もうこちらを見てすらいない。
「タケシがあんまりにも、私の言うことを聞いてくれないんだもん?」
「お前なんて日本語通じないだろ」
「あ、ひどーい」
もちろん、からかうだけの言葉のアヤだと分かっている。こういう口が悪い子なんだ、っていうのも、長年の付き合いでよくよく知っているのだから。
でも、時折、いじわるしたくなるのが乙女心。
「他の人のところにいっちゃおうかな」
その瞬間、武の手が止まる。先ほどまで、テキストのページをめくったり、何かを書いたりと、手が止まらなかったのに。止まっても、目は動いていて、物音が止むことなどなかったのに、それが止んだ。
その沈黙で、自分が何か地雷を踏んだことを、酷く思い知らされた。
「あ、あの、タケシさーん……」
次の瞬間、私は天井と、武の顔のアップを拝顔することとなった。
強く強く握られた腕が痛い。こんなことしなくても、逃げはしないのに。
「ちょ、ちょっと?」
「冗談でも」
私の言葉を遮るように、彼は言う。酷く、熱の篭った声で。
「冗談でも、そんなこと、言うな」
私の腕を拘束していた腕は、自然と、腰の方へとくだってゆく。
その熱に、色んなステップを走り飛ばして、何をするつもりなのか、と、ゆでダコのように、それらの予想をしては打ち消し、勝手にヒートアップしているところで、彼は私から離れた。
「ふぇ……?」
「嫁入り前だろ」
それだけ言って、武は、また机に戻る。何事もなかったかのように。
彼の真っ赤な耳、それだけに痕跡を残して。
ベッドから起き上がり、彼の耳たぶに軽くキスをすると、女の子のような悲鳴が上がる。笑わずにはいられない。
「別に、嫁入り先なんて決まってるのに?」
「そういう問題じゃない!」
ああ、今日もなんて幸せなのだろう?
体を重ねなくたって、心は重なっている。
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