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[即興小説]重ね合うもの

お題:未熟な情事 制限時間:15分

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 私たちは、当時、とても若かった。
 今思い返せば、青臭い、とお互い笑ってしまうのだけれども、それでも必死に、お互いをわかり合おうとしていたのだ。
 
 
 
 付き合いだしたのは大学に入ってからのことだった。
 幼馴染同士。おうちが近所。両親はよくお互いのことを知っているし、両親同士の親交も厚い。
 そんな二人がお互いを異性だとして意識しだしたのは、いつからだったのか。
 高校まで同じ学校で、そんなこと考えてみたこともなくて。
 大学を、進路を考えているときに、ああ、離れ離れになるんだな、そう思い至った時、はじめて気づいたのかもしれない。
 ずっとこの胸のうちで育ってきた、恋の芽に。


「ねぇ、なんでいつになっても手を出してくれないの?」
 からかうように、彼のベッドの上で腰掛けて、私が言うと、赤面して、武は目をそらした。
「アホ。もっと色気が出てきてから言え」
「結構、これでも人気あるんだけど」
「男女関係なく、友達として、だろ」
「悪かったわねー」
 ぶー、と口を尖らせて、近くのぬいぐるみを抱きしめる。

「ねーキョーちゃん、タケシ酷いよねー」
「ぬいぐるみに話しかけるな、気色悪い」
 武は、私の相手はほどほどにして、机に向かって勉強を続けることにしたようで、もうこちらを見てすらいない。

「タケシがあんまりにも、私の言うことを聞いてくれないんだもん?」
「お前なんて日本語通じないだろ」
「あ、ひどーい」
 もちろん、からかうだけの言葉のアヤだと分かっている。こういう口が悪い子なんだ、っていうのも、長年の付き合いでよくよく知っているのだから。
 でも、時折、いじわるしたくなるのが乙女心。

「他の人のところにいっちゃおうかな」
 その瞬間、武の手が止まる。先ほどまで、テキストのページをめくったり、何かを書いたりと、手が止まらなかったのに。止まっても、目は動いていて、物音が止むことなどなかったのに、それが止んだ。
 その沈黙で、自分が何か地雷を踏んだことを、酷く思い知らされた。

「あ、あの、タケシさーん……」
 次の瞬間、私は天井と、武の顔のアップを拝顔することとなった。
 強く強く握られた腕が痛い。こんなことしなくても、逃げはしないのに。
「ちょ、ちょっと?」
「冗談でも」
 私の言葉を遮るように、彼は言う。酷く、熱の篭った声で。
「冗談でも、そんなこと、言うな」

 私の腕を拘束していた腕は、自然と、腰の方へとくだってゆく。
 その熱に、色んなステップを走り飛ばして、何をするつもりなのか、と、ゆでダコのように、それらの予想をしては打ち消し、勝手にヒートアップしているところで、彼は私から離れた。
「ふぇ……?」
「嫁入り前だろ」
 それだけ言って、武は、また机に戻る。何事もなかったかのように。
 彼の真っ赤な耳、それだけに痕跡を残して。

 ベッドから起き上がり、彼の耳たぶに軽くキスをすると、女の子のような悲鳴が上がる。笑わずにはいられない。
「別に、嫁入り先なんて決まってるのに?」
「そういう問題じゃない!」


 ああ、今日もなんて幸せなのだろう?

 体を重ねなくたって、心は重なっている。

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