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[即興小説]団地妻の檻

お題:団地妻の監禁 制限時間:15分

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 わたくしの名前は、井上佳子。イノウエ、ヨシコ、と申します。
 俗に言う、専業主婦をしておりますの。家庭を守り、夫を支えているんです。これだって、立派な職業、そうでしょう?
 わたくしは夫の仕事の関係で、団地のほうに住んでおりまして。ここでは女性の園特有の交流が盛んです。つまり奥様方のあれやこれやの、好奇心を満たすためだけに作っれたような根も葉もないような噂から、現実味を帯びた情報まで、様々なものが行き交っているんですよ。井戸端会議はいつも賑やかです。
 もう、重苦しいまでの女性社会なんです。女であることがイヤになるくらい、その「地」に縛られてしまいます。頼みの夫は頼りになりませんし。主夫さんは、いらっしゃいません。
 まったく、疲れてしまいますね。


 わたくしも、ここに越してきたばかりのころは、やれ挨拶のやり方がなってないだの、引越しの仕方が悪いだの、庭の木の葉が道やお隣に落ちるだの、ゴミの出し方がなってないだの、散々でした。ちゃんとやっているつもりでも、細かなところで口を出してくるのです。姑のように。そう、言いたいだけの注意の類です。
 いわゆる、洗礼ですね。本当にもう、まいってしまいました。

 そんなわたくしの心にも、一筋の希望の光がありました。
 夫、ではありません。大事なパートナーであることには代わりはありませんが、彼はここから救ってはくれないのです、役立たずですね。それどころか、彼のせいでここに来ることになってしまったも同然、といったところでは、逆の意味を持つでしょう。確かに大事な人ですが、ここで言う希望、には値しません。

 わたくしには一人、ここでも、友人ができました。
 名を、田中恵さんといいます。タナカ、メグミさんです。
 
 彼女は、数少ない、わたくしと同じ世代の女性でした。ここいらでは、ご年配の方のほうが多いのです。若いと、それだけで妬まれることも少なくないのです。

 彼女は私によく接してくれました。ゴミの出し方が、と言われたときは、言われなくては分からないようなここのローカルルールをちゃんと教えてくれて、木の葉っぱが、と言われたときは、わたくしにはよく分からないインターネットを使って、その対処方法を一緒に考えてくれたりしました。
 そして、ほかの方との間に入って、仲を取り持ってくれたりしました。

 彼女のおかげで、わたくしはこうして、今の安寧な専業主婦生活をおくることができるようになったのです。
 しかし、生活が安定するにつれて、彼女とわたくしの接点は、すこしずつ、無くなっていきました……。


 ある日のことです。
 わたくしは、檻を購入いたしました。

 なんでかって? 用途はご想像におまかせいたします。
 これは、愛しい彼女のためですから、ね?

 ある情報を小耳に挟んだわたくしは、これを実行せずにはいられなかったのです。
 もう、我慢なりませんでした。
 必要な小道具を書店などで調べ、購入します。少し、恥ずかしかったですが、そうも言っていられませんね。


「ヨシコさん、聞きましたよー!」
 メグミさんが、わたくしの家に久々に遊びに来ました。わたくしの意図も知らずに。
「メグミさんが好きだって言うから、わたくし、頑張りまして」
 何を? ヤボなことです。
「早く見せてくださいよー!」
 我慢ならない、といったていで、彼女は口をすぼめて笑っています。なんて愛くるしいのでしょうか。

「そんなに焦らなくても、逃げませんから……ね?」
 わたくしはそっと……檻の鍵を、取り出しました。
 
 
 
 
「かわいいー! ウサギ、うちでも飼いたいんですけどねー!」
「でしょう? メグミさんが好きだって聞いたので、つい。夫におねだりしてしまいました」
「イエウサギの、赤い瞳に白いボディって、こう、かわいくないですかぁー?」
 デレデレとうさぎを撫でながらメグミさんが言います。



 一人でペットショップなんて、始めてで恥ずかしかったですね。
 でも、メグミさんとの接点を作るためでしたから、頑張りました!
 これからはメグミさんと二人でのおしゃべりは、井戸端会議でよくある、心にしこりの残るイヤな人の悪口なんかを話のタネにせず、こうして癒しを話題の中心にすることができます。

 私には、ウサギよりも、メグミさんのほうが、かわいいのですけれど。
 

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