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私が彼と出会ったのは、賑わいをとうになくし、雨音だけが響く、ふるびた元商店街の、錆びたシャッター街だった。
私はそこで、迎えを待っていた。私は、高校へは徒歩で通学をしている。雨の日だって、こうして歩いて学校へ向かう健康優良児だ。
しかしながら、今日は朝は晴れていた。おまけに遅刻ギリギリのお時間に目覚めてしまったから、大変だ。天気予報は当然ながら見ておらず、今日が夕方から雨だ、ということを知らずして、こうして、帰宅途中に突如降ってきたこの迷惑な雨が止むのを待っている。
雨が止むか、家族が迎えに来るか。それまで待っていよう。
そしてその潰れてしまったお店の前のひさしを借りて、私は雨宿りをしていた。
そして、ほんの少し後のことだった。
「彼」が来たのは。
「あら、大変……」
自分もスカートや靴下がぐっしょりと濡れているのを知っておりながらも、思わず気を取られずにはいられず、私は既に多量に水分を含んでしまった、自分のタオルを絞り、彼にあてがう。
彼は、頭から足先まで、びっしょりと雨に濡れていたが、本人は全然、それに構うことなどなく、遠くの空を見ていた。
「カゼひいちゃうわよ」
当然のように返事はなく、彼は軽く身震いをする。寒いのかもしれない。
「もう……」
勝手に体を拭き始めたが、彼は特に私を咎めるようなことはなかった。それどころか、振ってぬぐうその場所を、吹きやすいよう協力するかのように、体をよじる。
「ふふふ……」
そして彼と戯れていると、聞きなれた車のエンジン音が近づいてきた。
「あんたね、一人でしゃがんで何しているの?」
車が止まると、母が窓を開けて、私に話しかける。
「一人じゃないわ。ほら」
彼のほうを指差すと、母は、ああ、と納得したようにため息をついた。
「犬は飼えないわよ」
「首輪ついてるもん、一緒に雨宿りしてただけよ」
白い毛並みの彼は、私の顔を見上げて、心もとなそうにくぅん、と一声だけ鳴いた。
「ごめんね、また、会いましょ」
数日後、また小雨がちらつく日に、我が家に小さなお客様が訪れたのは、また別のおはなしである。
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