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■二日目、サイーショの街。前ページの続き。
……と、遺跡に入る予定だった私たちですが、ンクさんが怪我をされていることに気づき、その足を一旦止めました。
どうやら、森を移動している間に、気づかないうちに出来ていたもののようです。
こうしたケガにおいて、人に指摘されて視認すると途端に痛み出す、というのはよくあることですしね。
そうして治療を開始したのですが……、その、えっと……毛皮で覆われていると患部が見えづらいのですね?
正直、知識ばかりを蓄えてきていて、酷い怪我なんてするようなことをまずしない耳長人の里にあっては、癒し手として技術を磨く機会は少なく……。早い話が経験不足なんです。
その代わり、薬師としてはかなり勉強をしたと自負しています、癒し手になったのは妹を治すためのことだったので、病気のほうへの治療の勉強を最優先していましたから。先述のとおり、ケガをする人も少なかったですしね。
それに加えてンクさんの患部はやはり毛で覆われていたために、動物の治療もほとんどしたことのない私は大苦戦をしました。
私が傷薬を染み込ませたガーゼを当てると、苦悶の表情と共に悲痛な鳴き声、いや叫び声が……。
かなり痛がられていましたし、悪いことをしたな、と……ちょっと反省しています。
様々な種族に対して、もっと理解を深めねばなりませんね。外科的に。いえ、色んな意味で。
今後の課題です。
さて、気を取り直して遺跡の内部に入った私たちでしたが、そこは、陰湿な空気で満ち満ちていました。
澱んだ空気がそうさせたのかもしれませんが、何より……不穏な、何かを感じました。
形容しがたいのですが、その時はなんといいますか……、ゾワゾワした、触れれば私を蝕むようなそんな空気が、意思を持ってこちらを狙っているような、包もうとしているような……、そんな、不気味な感覚でした。
それに、壁際に等間隔で並んだ六つの鎧、それにも不吉なものを感じましたが、中に生命の気配は一切感じられませんでした。でも、感じるのです。その、不穏な空気を。その鎧からも。
私は一刻も早くそこから出たくてたまりませんでした。
まぁいくらなんでも、ホラーのように、突然動き出すということもないわよね、なんて強がってはいましたが……。
しかしそれは叶わぬこと、なんとそのフロアの中央には女性が倒れていました。
アレちゃんのンクさんへの説明を聞いていた限りでは、どうやら彼女がテレサさんのようでした。
そして、彼女のそばには血のついた短剣。
近寄って見るに、彼女は怪我をしていました。刺し傷でしたから、その短剣によるものでしょう。
急いで手当を開始して、ひと段落した頃でした。
その異変が起きたのは。
皆が一様に騒ぎ出して、私も異変を感じ取りました。
その方向を見やれば、人間の冒険家である、クールそうで無口な印象を受ける彼、ロイスさんが突如、不気味な微笑みを浮かべて、奥の大扉へと向かって行くところでした。
この部屋を満たしている不吉な空気、それが彼を捕らえている気が……しました。
「へぇ……」
そう言葉を漏らし、彼は一歩、一歩と確実に歩を進めます。
彼に何が起きたのか、その時の私に知る術はありませんでした。
「これだけの金があれば、あいつらは何も不自由しなくて済む……」
小声で、そう聞こえた気がしました。
アレちゃんが、心配なのかロイスさんに近づいていきました。
「どうしたなの? どうしたなの?」
しかしロイスさんは、一向に彼女のほうを見ようとはしません、それどころか……。
言葉もなく、アレちゃんは……、何かの衝撃を受けたように、崩れ落ちました。
「アレイラッ!」
「アレちゃん?!」
急ぎンクさんがアレちゃんをキャッチしましたが、もうロイスさんは大扉の前に立っていました。
まるで、もうロイスさんではないようでした。
「はは、はははハハハハハハハハハ!!」
気が狂ったような笑い声。それが部屋中に響きわたりました。
まるで、彼は既に人間ではないようでした。
……物語に出てくる魔王のように、彼は、ただただ虚ろな目で、狂ったように笑っていたのです。
彼は、笑いをやめると扉に触れて、何かの呪文を唱えるように、ブツブツと何かをつぶやきだしました。私は彼の近くにいなかったので、それは聞き取ることはできませんでした……。
ンクさんは、弓を構えていました。
彼はロイスさんです、止めてください、そう言おうと、止めようとしました。
でも、恐怖で口が動かないのです。口だけが無意味に動きます。
「ロイス、貴様!」
そして私の数秒の逡巡の間に、ンクさんは矢を放ちました。
刹那、激しい雷音。
そうとしか表現できない音が鳴り響き、アレちゃんと同じように、矢は何の抵抗もなく吹き飛ばされました。
それは、先ほどよりも、威力を増しているように思えました。
何が起きているの?
私はただ、扉の前にいる彼の行動を見守ることしか、できませんでした……。
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