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[和 創作童話風] 晴れ女と雨女


 昔むかし、あるところに晴れ女がいました。
 彼女が外に出ると、たちまちどんな土砂降りの雨でも止んでしまうのです。
 だから村の皆は、彼女をずっとひとつの小屋に閉じ込め続けました。
 お米やお野菜を作って暮らしている彼らからしたら、彼女は日照りをもたらす悪者以外の何者でもなかったのです。
 彼らにとって、雨は何より大事な天の恵みでした。
 
 そして、また違うあるところに、雨女がいました。
 彼女が外に出ると、たちまちどんな干ばつでも、雨が降り始めるのです。
 だから、村の人たちは、彼女を神の御使いだと崇め、奉りました。
 彼女には自由が与えられ、気がむいた時に外に出て、気が向いた時に帰っていいことになっていました。
 雨は適度に降れば丁度いい。
 彼らにとっても、雨は何より大事な天の恵みでした。
 
 
 二つの村は、あるとき、お互いの存在を知りました。
 そして、晴れ女のいる村は、雨女を少しの間でいいから貸してほしいとせがみました。
 雨女のいる村の人々は、当然これを断りました。
「あの子は、私たちにとって大事な女神さまなんだ」
 
 
 
 ある日、雨女が死にました。
 理由は、雨が止まらなくなったから、村人に殺されたからでした。
 草木は根腐れし、どんどん枯れていきました。
 川は氾濫をおこし、村の半分を根こそぎ奪っていきました。
 人が、たくさん死にました。
 雨女は、ずっと部屋の中にいるように言われました。
 それでも、雨は止むことはありませんでした。
「こいつがいるから、こんなことになったんだ」
 一人の思い余った若者が、とうとう行動を起こしてしまったのです。
 それ以来、村の雨は延々と止むことがなくなりました。
 
 ある日、その知らせが晴れ女の村にきました。
 雨女の村の人たちは、晴れ女を貸してほしいとせがみました。
 しかし、その日は丁度よい雨が降っていました。
 彼らにとっては久々の雨でした。
 今、彼らに晴れ女を渡すために部屋の外に出してしまうと、せっかくの雨が止んでしまいます。
「あの子は、私たちにとって大事なお姫さまなんだ」
 晴れ女の村の人たちは、雨女の村のひとたちをそう言って追い払いました。
 
 
 その日以降、晴れ女の村に雨は降らなくなりました。
 雨女のいた村も同じく、今度は一滴の雨も降らなくなりました。
 今度は人々は、晴れ女を殺そうと思いました。
 
 
 晴れ女は、刃物を持った村人たちを前に、叫びました。
 力ある限り逃げましたが、どこにいっても、人、人、人。
 ずっと幽閉されてきた晴れ女の足腰では、山道は逃げ切ることができません。
 とうとう、屈強な男たちに羽交い絞めにされました。
 一人の男が、斧を振り上げます。
 彼女は、死にたくないと喚きました。
 でも、彼らは顔色一つ変えることはありません。手は解かれることなく、斧も振り上げられたままでした。
 
 晴れ女が涙を浮かべ、斧を見上げ、頬に涙が伝ったその瞬間でした。
 彼女の首は、宙を舞いました。
 どずん、と重たい音をたてて、彼女の首は落ちました。
 瞳に浮かべていた涙が、大事にぽつりと落ちました。
 
 するとどうでしょう。
 たちまち空から雨が降ってきたではありませんか。
 人々は、よかった、よかったと喜びました。晴れ女が死んでよかったと。
 もっと早くにすればよかったのだと。
 
 
 晴れ女の嘆きを見届けていた神様がいました。
 それは、かつての雨女でした。
 彼女は、晴れ女の境遇に涙を禁じえませんでした。
 そうして同情し、流した涙が、大地に雨となって降り注いだのです。
 
 雨女は、いつも誰かに必要とされていました。笑顔をもらっていました。感謝の言葉をもらいました。
 最後には殺されてしまったけれど、供養も丁寧にされたので、このような地位につくことができたのです。
 
 でも、晴れ女は違います、生まれた時から、彼女が彼女だという理由でずっと自由を禁じられてきました。
 そして誰からも必要とされず、悪いこともしていないのに、死んで、殺されてはじめて人に喜ばれたのです。
 
 
 それから、一刻の間だけ雨は降りました。
 そのあとは、ただの一滴も降ってくることはありませんでした。
 
 雨女のいた村の人々も、晴れ女のいた村の人々も、何も作物は育てられなくなり、酷い飢饉になりました。
 ついには、お互いに食料をめぐって争いあいました。多くの人が死にました。
 最後には米のひとつぶも無くなって、村の最後の一人も死にました。
 
 
 こうして、お互いを助け合わず、人を利用することしか考えなかった村の人々は全滅しましたとさ。


 めでたし、めでたし。

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